先日ワイタンギ条約が締結されるまでの大まかな流れを書きましたので、その続きです。
前回を軽くまとめると
- NZはマオリの国だったけどイギリス人が入植してきた
- イギリス人が入植してきたためにマスケット銃が普及してマオリ族の部族間抗争も近代化した(マスケット戦争)
こんな感じです。
イギリス人入植者の増加と問題
マスケット戦争が起きたあたりは1820年くらいの頃なのですが、この頃はイギリスからの入植者が増えていった時期でもありました。
そして起きた問題の一つが「イギリス人がマオリから土地を騙し取る」ということが横行した、でした。
そしてもう一つの問題が、フランスがNZを植民地化しようとしていた、というものでした。
イギリスは当初NZを植民地化する予定はなかったのですが、この状況から急遽NZを植民地にすることにしました。
NZをイギリスの植民地にすることでマオリの保護やNZ全体をイギリスが守るということです。
ワイタンギ条約の締結
当時NZの服装得だったウィリアム・ホブソンがNZ主権獲得の任を受け、現地に住んでいたジェームス・バスビーの助けを受けながら条約を作成しました。
条約作成にかかった期間は数日だったようです。
宣教師のヘンリー・ウィリアムスとその息子エドワードが英語版をマオリ語に翻訳し、マオリ部族約500が話し合って6日に調印となりました。
ワイタンギ条約は以下から読むことができます。
締結における問題1、全部族が理解した上で合意したわけではない
ワイタンギ条約は1840年2月6日に調印されましたが、この日に40の部族がマオリ語版に調印し、その後国内の他の500部族にコピーを送付して調印してもらったのですが、その中には意味もわからずに調印した部族もいるようです。
他にも調印を拒否した部族やそもそも調印できなかった部族もいるようです。
ただそんな状況ではあったものの、イギリスが条約締結を宣言し、1840年5月21日にNZの主権をイギリスが獲得することになりました。
ワイタンギ条約はすべてのマオリが賛同したわけではありませんでしたが結局条約が締結されました。
締結における問題2、誤訳、またはミスリーディングな訳
ワイタンギ条約は3つの文からなります。
こちらから読むことができますが言っていることは以下の3つです。
- MaoriはNZに主権を譲渡する
- Maoriは英国王との間で土地の独占売買を行う、その代わりにマオリは土地の所有権、林業、漁業、その他所有物の専有が保証される
- 英国民としての権利を有する
これは英語版のないようなのですが、マオリ語版に翻訳するときに有名な「不適切な翻訳」がされています。それを書いていきます。
- 主権(sovereignity)がkawanatangaと翻訳されている。これは英語ではgovernance(統治、管理)という意味になる
- ‘undisturbed possession’ of all their ‘properties’、所有物に対する占有権という文が‘tino rangatiratanga’ (full authority) over ‘taonga’ (treasures, which may be intangible)となっている。つまり、マオリは自分たちの大事にしているもの(有形無形に関わらず)に対する全権を持っているという意味になる。
英語版では英国がNZの主権を持ち、マオリにはいくつかの権益が与えられる変わりにイギリス人として扱われる、となっているのだけど、マオリ語版ではマオリは自分たちの有形無形に関わらず持ち物に対する全権を保持し、英国はそんなマオリに対する管理者の立場を取る、となっているのでものすごく違います。
更にいうとマオリにおいては書かれた契約書よりもその場でかわされた会話にこそ意味があるという文化であることも問題を厄介にしているようです。
NZ戦国時代からのワイタンギ裁判所設立へ
ワイタンギ条約が締結されたことでマオリに対するイギリスの権力が(誤解だらけとはいえ)ましたことでマオリは反発するようになります。ワイタンギ条約締結後の一連の戦争はNorthern Warなどともいわれていますが、結局英国のワンサイドゲームだったようです。
とにかくワイタンギ条約締結後たくさん戦争をして多くのマオリが命を落とし沈静化します。この辺は書くと長いので割愛しますが、とにかくワイタンギ条約の問題は1975年にワイタンギ裁判所が設立されるまで実に100年以上も放置されることになりました。
この裁判所がワイタンギ条約の解釈を公的にする機関になります。
マオリ側からすると自分たちの主権は一切脅かされないはずがどんどんと脅かされるようになりそれに対して反発したらフルボッコにされた挙句問題が100年以上放置された、ということになります。やべーですね。
デビッド・シーモアは結局何がしたいの?
そんなワイタンギ条約なのですが、デビッド・シーモアは何がしたいのかっていうのが問題になります。
破棄するのか、改めて条約を作り直して締結するのか、それともそのままなのか
まず、ワイタンギ条約は変えないものの、解釈を変える可能性があります。言っていることはワイタンギ条約に書かれたことではなくその魂のようなものをしっかり再確認しよう、ということで、これは確かにマオリからしたら何いってんだお前っていう話かもしれません。
ただ、今のニュージーランドにおいてマオリが権益を持っているのはおかしい、みんな法のもとに平等であるべきだ、と言っているので、彼の思惑通りに進むなら次に起きるのはワイタンギ条約の骨抜きかもしれません。
ワイタンギ条約の根底にある精神的なものは変えない、と言っているものの、何がどこまでどうなるのかはわからないですね。
マオリは何に怒っているの?
先程の記事の中でマオリ党のコメントがあり「ワイタンギ条約を変えるとしたらそれができるのはワイタンギ条約に調印した人であるべきだ、お前は一体なんの権利があって変えようとしているのだ」と言っています。
たしかにな、とも思います。
とはいえ、NZにもガバナージェネラルという英国王の代理人がいるので、政府としてワイタンギ条約をいじるということそれ自体にはルール上はおかしな点はなく、政府が議論をして出た結果をガバナージェネラルに持っていき合意するならそれは英国王室が合意した、ということになるものの、確かにマオリ族長たちの合意がないなら条約の一方的な変更担ってしまいます。これが果たして許されるのかというのも気になるところですね。